2.支柱を決める
今回は、軽架線システムにおける支柱についてお話します。
前回申し上げたとおり、支柱の選び方は地形に影響をうけます。地形の確認の仕方については前回ブログをご参考ください。
支柱とは架線(空中に張られたロープ)を支える柱をいい、立木や株などを使います。
軽架線システムで使用する支柱には、以下のものがあります。
- 先柱(さきばしら)×1本 :荷がある側の立木※
- 元柱(もとばしら)×1本 :目的地の側の立木※
- アンカー×2本 :固定索や動力を固定する立木※
- 向柱(むかいばしら)×1本 :元柱の転倒を防ぐための立木※
※いずれも伐ったばかりの切株でもかまいません。
※架線を取り付ける位置が地面で良い支柱は、根元部分が残っていれば十分活用できます。また根元部分への荷重は転倒する(幹が折れたり、根返りして倒れる)リスクも小さいので、積極的に活用してよいと思われます。
※古い切株や、太くても幹や根の腐朽が感じられる立木は避けましょう。
(注)これら以外に支柱が必要になるケースがあります。
控索(ひかえさく)を張る必要がある場合です。
その場合は、控索の本数分、アンカーとなる立木や切株に見当をつけておきます。
控索については、別の後の回で説明いたします。
支柱に見当をつける段階で強く意識すべきは、強度と安全です。
架線=地面から離れたロープを使う関係で、取り付けられた支柱にはテコの力が働きます。
地上で触ってこの木なら大丈夫と感じていても、テコの原理で作用点が離れてしまうと転倒させる力に発展することがあります。
では実際に林内を歩き、架線張りに使用する支柱を選んでみましょう。

これは林を真上から見たイメージです。
集材対象の林はまだ伐採していない状態ですので、集材エリアはイメージとして捉えてください。
また索張り(固定索など)もイメージとして捉えてください。
- 先柱(さきばしら)×1本 :荷がある側の立木
先柱は、荷がある側の立木です。
荷は、先柱側を起点に元柱側に向かって移動します。
先柱は集材エリアを回ってみて決めます。
先柱は必ずしも集材エリアの端っこにある必要はなく、前後に集材エリアが広がるような場所でかまいません。
前側(元柱から見ると奥側)からも横取りと同じ具合に材を取れますので、横取り長をふまえて先柱の選択肢を広げておくと良いでしょう。
- 元柱(もとばしら)×1本 :目的地の側の立木
元柱は、目的地がある側の立木です。
荷は、先柱側から元柱側に向かって移動します。
荷は目的地で下ろしますので、元柱の手前側(先柱側)に目的地を設けられるよう、元柱を決めてください。
固定索(主索、本線とも呼びます)は、先柱と元柱の間に渡されます。
固定索を張ったときに、十分に地上高を確保できるかを考慮して、先柱と元柱を再確認してください。
ここで改めて地形の要素が大きく影響することが分かりますので、前回ブログで説明した「地形を確認する」をご参考に、支柱選びを行ってください。
ちなみに図のとおり、元柱は集材エリアの中にある必要はなく、むしろ固定索の地上高を考慮に入れて、やや離れた(集材エリアから遠い)支柱なども候補に考えると良いでしょう。
- アンカー×2本:固定索や動力を固定する立木
アンカーとは、固定索や動索の端を固定するための支柱です。
この言葉が「anchor(いかり)」から来ているように、これにより固定索や動索の端が地面に繋ぎ止められます。
【1本は、固定索の固定用です】
固定索は先柱を起点に元柱に向かって張られますので、その延長上にアンカーとなる支柱を探します。
概ね直線上にあることが大事で、角度がつくと元柱が横に倒れやすくなりますので注意してください。
固定索の端は、アンカーの地面近くの高さに取り付けられます※ので、切株(伐ったばかり)でもかまいません。
※厳密には、アンカー側にチルホール(ウインチ)を取り付けますので、固定索の端はチルホールと繋がります。
【もう1本は、動力の固定用です】
荷を移動する力を伝えるのは動索です。
その動索は動力(機械)から伸びていますので、動力を動かして荷を動かし始めると、抗力が働いて動力が動いてしまいます。
この動力をしっかり動かないようにしておくのが、もう1本のアンカーです。
動力側のアンカーも、動力と同じ高さ(おそらく地面の高さ)に取り付けられますので、切株(伐ったばかり)でかまいません。
後の作業になりますが、動力をアンカーに繋いだ直後はロープがたるんでいますので、動力(機械)の位置を動かしてたるみを取り除いておく必要があります。これは運転前に確認しておくと良いでしょう。
- 向柱(むかいばしら)×1本 :元柱の転倒を防ぐための立木
向柱とは、元柱の転倒を防ぐための立木です。
基本の図に描いていませんが、元柱の強度に不安があるときは向柱が必要になります。
後ほどご説明します。
立木である必要はない
繰り返しになりますが、支柱は立木である必要はありません。
アンカーや向柱はそもそもロープの取り付け位置が低い(地面近く)ので切株でも構わないのは当然ですが、先柱や元柱も全て切株を使うことができます。ただしこれには地形の要素が大きく影響します。固定索を張り上げたときの地上高が十分高くとれるのであれば、切株の高さで架線は十分機能します。
地形についてのご説明は前回ブログを参考にしてください。
■ 目的地を決める
目的地は、移動させた荷を下ろす場所です。
支柱を決める際に、同時に決めておきたいのが目的地です。
目的地は、トラックなど別の運搬手段が近くまで来られる場所である必要があります。
したがって、土場や道が近くにあることが必要です。
固定索(先柱と元柱をつなぐ)は目的地の上を通過します。
搬器は少なくともここまで移動し、荷をここで下ろすことになりますから、固定索の地上高が十分あるかもチェックしてください。
搬器や人の動作を考えて問題があるようでしたら、目的地を柔軟に変えてください。
支柱の都合で決める
以上、支柱を決めてから目的地を決める流れでご説明しましたが、最初に目的地を決めてから支柱を決める流れもございます。
柔軟にバランスの問題として捉えればよいのですが、支柱は立木の都合でしか決められないのに対して、目的地は人間の都合で変えることができます。
ここでは無理をしないことを第一に、まずは支柱の都合を優先して考える手順をご説明させていただきました。
■ 危険エリアを認識する
集材の作業には危険がともないます。
車両系集材には車両の周囲に危険があるように、架線集材にも危険な場所が存在します。
支柱が決まると危険エリアが決まりますので、支柱の見当を付けたら、どこでいつ作業をしてはいけないのか認識しておきます。

①内角作業の禁止
力のかかったロープが切れたり、滑車(ブロック)からロープが外れて飛び出したときに一番危険なのは”内角方向”のエリアです。
固定索の場合は支柱の真下付近になりますが、広さやリスクの大きさから問題になるのは動索の成す内角のエリアです。
本来は運転中だけ気をつけていれば良いのですが、ロープから力が抜けている状態が外見から分からないこともあるので、ここで作業をすることを最初から禁止するようにします。
このことを一般に「内角作業の禁止」といいます。
運転前にも、作業員同士で認識を共有しておく必要があります。
危険を受けやすい動力の運転員は、内角方向から外れた場所で作業するようにします。
②谷側作業の禁止
下げ荷の場合、元柱方向に広がる谷側が危険エリアになります。
図は下げ荷の場合を想定して描いています。
一番大きな危険は、掛けた荷(やそれに衝撃を受けた荷)が谷側に転落してくることです。
荷掛者は、荷を掛けたらこのエリアから退避します。
また動力もこのエリアから外れた場所に置きます。
上げ荷の場合、図のイメージとは逆に先柱方向に危険エリアが広がります。
いずれの場合においても、動力運転時には必ず退避するように癖をつけましょう。
■ 元柱の強度を確認する
元柱には、動索の張力が横方向(斜め方向含めて)から働きます。
後述しますが架線集材には危険エリアがあり、元柱の後ろ側(アンカー側)は動力を置くことが難しいため、動力は固定索に対して横方向に離して置くことになるためです。
こうした動力からの力をふまえ、元柱が倒れてこないか強度を確認します。
- 元柱が細くて頼りない(腐っていたり枯れているものは論外)
- 動索の成す角度が小さく(~120°以下)、元柱に動索の緊張が強く伝わる
- 動索の取付位置が高く、弱い力でも倒す力が大きなものとなる。
このような様子が感じられるなら、元柱が転倒するリスクがありますので対策を講じる必要があります。
転倒パターンには、幹折れや根返り(根こそぎ倒れること)も含まれます。
■ 向柱を立てて元柱の転倒を防止する
元柱の強度に不安があるときは、向柱(むかいばしら)を立てて元柱の転倒を防止します。
元柱と動力の間に適切な立木(または株)を見つけてそれを向柱にします。
動力や動力固定のためのアンカーの位置も、向柱次第で決め直してもよいでしょう。

「向柱を立てる」というのは、動索の力を2段階で和らげる、という意味です。
2段階というのは元柱の段階と向柱の段階という意味です。
動索が元柱を倒そうとする力は、張力の合成力でお考えください。
張力は動索の両側(入口側と出口側)で同じ大きさで働きます。
「力の平行四辺形」はこの場合、4辺の長さが等しい菱形になり、張力の合成力は簡単に概算できます。
【計算式】 合成力=2T・cos(θ/2)
例えば次のような比較をしてみましょう。
- 向柱を使わず元柱から直角に動力を引いた場合
元柱にかかる合成力=1.4Tとなり、元柱には張力の4割増しの力がかかることになります。
動索の取り付け位置が高ければテコの作用が強く働き、元柱を引き倒しかねません。
- 向柱を使い動索の力を均等に分散した場合
図のように動索の成す角度が、元柱と向柱のいずれも135°になると想定します。
すると元柱、向柱の各々にかかる合成力=0.77Tとなり、張力の8割分にまで落とすことができます。
このように、向柱をもう1本立てるだけで、元柱の不安を取り除くことができるというわけです。
以上の通りですが、元柱の強度に不安があるときは向柱を立てるようにしてください。
■ 向柱のもう一つの役割
補足しておきます。向柱は動力(ドラム)に向かう動索(ロープ)を適切にガイドする役割も兼ねています。
動索を元柱から動力に引き回した場合、地面からの高さが違いすぎる(例:元柱側が高すぎる)と、張力がかかったときに動力が仰向けに起き上がってしまうことがあります。向柱を間に置くことで、動索の高さを揃えることが可能になります。
■ 控索アンカーの見当をつけておく
控索については、別の後の回で説明いたします。
控索(ひかえさく)を張る必要がある場合は、控索の本数分、アンカーとなる立木や切株に見当をつけておきます。
■ 支柱にマーキングする
今回は、支柱を決めることについてお話しました。
現場での確認作業ですので、決めた支柱を後で見失わないよう立木にマーキングしておくことが大事です。
マーキングには、マーキングテープやマーキングスプレーを使います。
実際にマーキングすることで、離れた所からの目測がしやすくなりますし、二人以上で行う場合も確認がはかどります。
ノートにレイアウト図を残すよりも簡単かつ確実ですので強くお勧めします。

今回はここまでです。
次回(3)は、「集材路を伐開する」ことについてご説明する予定です。
お付き合いくださいましてありがとうございました。
なお前回ブログをご覧になりたい方は以下にございます。
支柱選びに影響を与える地形について説明していますので、合わせてお読みいただくことをお勧めします。