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現代版の一木造り~作品3点~

チェーンソー木工は現代版の一木造り(いちぼくづくり)の楽しみ方になるかもしれない、と期待をもちつつ、いわゆる木工という世界での位置づけを感じておきたく、「チェーンソー木工+木工」のトータルな作品作りを経験してみました。

 

ということでここではスギの一木造りの作品3点ご紹介します。なんと椅子ばかりでした。ちなみに平安時代ぐらいまでの木彫り作品はだいたい一木造り(いちぼくづくり)と言われています。ちなみに反対語は寄せ木造り(よせぎづくり)といいます。現在目にするものはほぼ寄せ木造りということになります。

 

 ---- 参考までに、「チェーンソー木工」だけの仕上がり感と使用した道具類についても後述いたします。

 

タンコロ椅子

洋風にはスツール(背もたれのない椅子)というべきでしょうか。

杉のタンコロからキャスター付きの椅子を作成しました。

どうですか、立派なタンコロでしょう。

 

【タンコロ】根元付近の端材のこと。端(たん)の転(ころ)がせる姿をしているところに語源があるのでしょうか。

この材料は根張り(横に膨らんだ部分)を活かすため地際ぎりぎりに切っています。安定感と同時に異形感も出ますね!

乾燥でひび割れが進んだので、パテで埋めています。

芯材が赤みがかって見えますが、本来は典型的な黒芯材です。じっさいチェーンソー切断直後は芯材は真っ黒でした。ずっと黒いままかなと思っていたのですが、カンナで磨くと色が抜けてピンク色になりました。そしてニス塗装すると色が深くなり、このように。

 

樹齢は84年でした。年輪を見るとこの木の生き様が垣間見えてきます。

29年目までは年輪が粗く、のびのび育ったようです。

30年目以降は年輪が細かくなっていることから、周りの木に被圧されて成長が抑えられたように見えます。

人の人生を見ているような気持ちになります。

 

サイズは、末口(上面)は径40~46センチ、底面は径57~72センチ。

高さ42センチ強(キャスターの高さは含みません)。

 

軽量化するため、チェーンソーで中をくり抜いています。

深さは41センチ強でした。つまり天板はたったの1センチ厚ということになりますが、かなりチェーンソーで際どく攻めた結果です。しかし想定外に薄くなってしまったので、重い物は置けません。

所々、パテ埋めした部分は、チェーンソーが入りすぎて、肉厚が薄くなった所です。

キャスターを付ける所は厚めに残しました。

忘れがちですが、チェーンソーを当てる前にマーキングしておかないと、キャスターを付ける場所がなくなってしまいます。

 

残念なことに底面には6ミリほどの高低差がありました。

チェーンソーで中をくり抜いた後、乾燥にともなって歪みが生じたことが原因と思われます。そのため低くなった箇所はキャスターの下に敷物を入れて高低差をなくしました。

 

重さは7.1kgでした。

写真は天井から測りに掛けて吊った姿です。

当初の切ったばかり(生木)のときは推定80kg(末口自乗法)でしたから、1/11になったわけです。中をくり抜き、かつ乾燥させれば、相当軽量化できますね。

 

●用途

このタンコロ椅子の用途は、作業用です。

座ったまま回転と移動ができるため、作業机での組立作業に向いています。

 


日なたぼっこ椅子

径34センチのスギ丸太から、日なたぼっこ椅子を作りました。

長い背もたれは、手で軽く持ち運びできるよう、大きな穴をくり抜きました。

・高さ89センチ

・座面28センチ×28センチ、高さ37センチ(後)~42センチ(前)

・重さ2.7kg

 

樹齢は57年でした。

背面はノコギリで割を入れ、乾燥して裂け広がった頃合いを見てパテを埋めました。

背面と側面をチェーンソーで直線に切り落としてしまった後、座面だけは丸く残しておけば良かったと思い直しています。次回への反省事項です。

 

脚を見れば一木造りの良さが際立ちます。

継ぎ目も接合部も無いので簡単なのに頑丈という利点があります。

また手前みそですが、結構美しいですよね。

 

残念ながら、虫食いが進んでいたので穴をパテで埋めました。

 

【注意ください】夏期は伐倒してから1ヶ月ぐらいの間に虫が大きな穴を空けますので注意してください。すぐ使うか、樹皮を剥いでおくかしないとこういう状態になります。

 

強度を持たせるため、Φ9ミリ×長さ20センチの鉄棒を2本貫通させました。

入口はパテで塞いでいます。

 

●用途

こちらは母の日なたぼっこ用に使ってもらおうかと考えています。脚をちょっと長めに作っておいたので、希望を聞いてちょうどよい長さに切り落とす予定です。

 


地下足袋はき椅子

先ほどと同じスギ丸太(径34センチ)から地下足袋はき椅子を作りました。

こんなものを作ったのは体が硬くなったせいです。地下足袋をはくとき縁石よりちょっと高いぐらいの椅子があるといいなとずっと思っていました。

・高さ55センチ

・座面34センチ×34センチ、高さ20センチ(後)~23センチ(前)

・重さ2.1kg

 

樹齢は同じく57年。

こちらも背面はノコギリで割を入れて、乾燥後にパテ埋めしています。

 

脚の形で一木造りの良さをお伝えしようと思ったのですが、残念ながら虫食いがかなり目に付きます。パテで埋めるしかありません。

 

先ほどお伝えした通りですが、一木造りは継ぎ目も接合部も無いため、簡単なのに頑丈という利点があります。

「簡単なのに」というのはチェーンソーという文明の利器があるからです。平安時代の一木造りは大変な作業だったと思います。

強度を持たせるため、9ミリ×20センチの鉄棒を2本貫通させました。

 


(参考)チェーンソー木工だけの仕上がり感

2番目の日なたぼっこ椅子の分だけですが、チェーンソー木工だけの仕上がり感をどうぞごらんください。

他の作品は記録を残していませんでした(あっという間にできてしまう意味でもあるのですが、ちょっと残念です)。

木漏れ日の優しい光で木肌の感じがふわっと出ているので良い感じがしませんか?

 

ちなみに作った直後は湿っていますが直に乾きます。チェーンソーの切削面のためざらざら感は拭えませんが、これはこれで良しと思う方もおられるのではないでしょうか。

 

 


使用した道具

以上3つの作品は、ほぼ同じ道具で作成していますのでまとめて記載いたします。

 

●前加工はチェーンソー木工

・スチール MS261C 50cc

・キョーリツ CS252T 25cc

 

・丸太バイス 丸太の固定具として立介(たちすけ)を使用

最大径28センチまでのため、加工途中から使用。加工が進むうち、自立できない形になった時に重宝します。

 

姿形は前加工の段階で決まります。チェーンソーだけでもこのような形のものはごく短時間(日なたぼっこ椅子が2時間程度)で完成できますので、用途場面次第では十分事足りるかもしれません。

 

 

●後加工は通常の木工作業です

後加工を施すことで、触感や見た目の美しさが引き出され、また耐久性を上げることも可能になります。以下に使用した木工用具と材料を列挙します。バイスなどの固定具は表記を省略しています。

 

・切り出しナイフ

・カンナ(平滑面のみ)

・アラカン(凸面~緩い凹面)

・NTドレッサー(凸面)

・電動ポリッシャー #60

・電動グラインダー #36砥石

・サンドペーパー

・ノコギリ(割り用)

・木工ドリルビット Φ9ミリ×200ミリ

・鉄の丸棒 Φ9ミリ×200ミリ ×2本/脚

・ウッドシール(木工パテ)

・ニス+塗装用具

 

後加工はこだわり方にもよりますが、チェーンソー木工の何倍~10倍以上の時間がかかります。また屋内作業となるため清掃などの付帯作業が発生します。

 

後記

 

「自分は前加工向きだろうか? それとも後加工向きだろうか」

 

実際に両方やってみて、どちらもそれなりにできそうだという感触が得られましたが、強いて言えば前加工のほうが自分に向いている気がしました。理由がいかにも腰抜けですが、後加工の木工のほうは奥が深すぎて、道具も腕も専門家にかないっこないからです。

 

やや冷めた見方になりますが所詮プロにはなれないという前提で考えると、前加工のほうが短期間に芸の域に到達できる気がしました。烏滸がましいことをいいましたが、気がしただけです。

 

よろしければ、どうか自問自答していただき、同じように前加工のほうが向いているかもしれないと思った方は、理由はどうあれ、いつかご縁があるかもしれません。このページを見ていただいたことが証かもしれませんね。

 

実家にて

12月30日、正月飾りとともに日なたぼっこ椅子を実家に。脚の長さはこのままでいい感じでしたが、後日また切るべきか意見を聞いてみます