単引きの限界と危険

 

単引き(=動力が1つ)による運搬にどんな限界や危険があるのかを解説します。

 

(要点)

  • 地引きは障害物に遮られる
  • (軽架線にて)搬器で倍力にすれば端上げができ、障害物を越えられる
  • 上げ荷では端上げが有効(ここまでが単引きの限界)
  • 下げ荷では端上げをしてもしなくても暴走の危険が避けられない

 

(ご参考)運搬方法の分類

運搬方向(上げ荷・下げ荷)の区別は省略しています。

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用語説明

  • 単引き:動力(動索)1つで荷を引くこと。単胴(ドラム1つ)とも
  • 固定索:搬器のレールとなり荷の高さを保持するロープ。主索または本線とも
  • 動索:動力を伝えるロープ。作業索とも
  • 上げ荷:谷側から山側へ向かう運搬
  • 下げ荷:山側から谷側へ向かう運搬

模型で説明

このような模型を使って説明します。

傾斜は30°。これぐらいの傾斜の山は日本では普通ではないでしょうか。

■ まずは搬器を使わずに

つまり架線方式ではなく「ベタの地引き」による方法です。どんな問題が生じるのか見てみましょう。

上げ荷 動力1つ 搬器なし

上げ荷を搬器なしで単引き(動索1本)で集材してみます。

搬器がないと、木口が切り株などの障害物にぶつかってうまく運ぶことができません。

 

※「倍力なし」とは荷にそのまま力を伝える方法で、後に出てくる「倍力あり(滑車を使って力を倍にする)」と対比しています。


下げ荷 動力1つ 搬器なし

下げ荷ではどうなるでしょうか。

上げ荷と同様、搬器がないと木口が切り株に遮られます。強引に動索を引き続けると荷は飛び出して落下することがあり危険です。


■ では搬器を使って端を上げられないか

切り株を避けて運ぶためには、端(はな)を上げる必要があります。そこで空中に固定索を張って搬器を乗せ、搬器を介して荷を牽引してみます。つまり荷に上向きの力を働かせようとする作戦です。

上げ荷 動力1つ 搬器あり・倍力なし

ここでは上の滑車が固定索に乗り、下の滑車が動索をガイドするだけの単純な搬器を使いました。倍力のしくみは使っていません。

 

しかし結果はだめでした。搬器が逃げてしまい、端はあがりませんでしたので荷は切り株にぶつかって前に進むことができませんでした。「搬器が逃げる」とは、動索を引くと搬器が動いて荷の真上から居なくなってしまう現象です。搬器が逃げると上向きの力が弱くなってしまい、荷を持ち上げることができなくなります。

 


下げ荷 動力1つ 搬器あり・倍力なし

下げ荷ではどうでしょうか。

やはり搬器が逃げてしまい、端があがらず切り株にぶつかって前に進むことができません。そして強引に動索を引き続ければ荷は飛び出して落下する危険もあります(搬器なしと同様)。下げ荷では上げ荷よりも搬器がより大きく逃げてしまうことも分かります。

 

以上のとおり、搬器を使っても倍力なしでは端が上がらず障害物を越えられないことが分かりました。

 


■ 倍力にしないと端は上がらない

上げ荷 動力1つ 搬器あり・倍力あり

ではどうしたら端を上げることができるでしょうか。

 

倍力のしくみを使うと搬器の逃げを抑えられ、端を持ち上げて運ぶことができます。倍力は動滑車を使えば実現できます。動画では荷に直接つながっている滑車が動滑車です。この動滑車が動索の張力の2倍の力で荷を引くため、端を上げて運ぶことができるのです(解説はあとで)。

 

倍力にすれば端を上げられ、上げ荷では有効です。

 


下げ荷 動力1つ 搬器あり・倍力あり

下げ荷でも倍力は有効でしょうか。

 

下げ荷での倍力は危険です

下げ荷の場合、端は少し上がりますが、上げ荷のときほどではありません。うまく切り株をかわせば前に進んでいくことができます。しかし問題は荷が暴走してしまうことです。切り株や地面との摩擦を失うと重力で飛び出して来ます。


水平運搬 動力1つ 搬器あり・倍力あり

倍力のしくみはどこまで有効なのでしょうか。上げ荷と下げ荷とでは様子が違ったように、傾斜の大きさによって端の上がる高さが異なるようです。

傾斜がない地形=水平運搬の場合はどうでしょうか。下げ荷のときと同様、端は少し上がりますが障害を越えられない場合もあるようです。

 

(以上要約) 倍力のしくみは上げ荷の場合に有効ですが、水平運搬~下げ荷の場合には有効ではないようです。



ブレーキ付き搬器が架線の能力を拡張

=動力1つでも安全な下げ荷が可能に

搬器HANAKO A2は荷重を使ったブレーキのしくみを備え、軽架線の能力を拡張しました。常に荷の真上に留まるよう固定索をつかみながら移動するため、動索の速度を超えて荷を動かすことはありません。このため下げ荷の場面においても、動力1つで安全に端上げ運搬・空中運搬を行うことができます

下げ荷 端上げ地引き

【資機材の構成】

1.固定索(主索):アラミド(ケブラー)製Φ14ミリ

2.動索(巻きあげ索):Wブレード(ナイロン芯+ポリエステル外皮)Φ10ミリ

3.動力:エンジンウインチ 50cc 2サイクル

4.搬器:森の機械製HANAKO A2 / ブレーキは繊維ロープ用

5.空搬器移動用ロープ:PP(ポリプロピレン)製Φ12ミリ


下げ荷 空中運搬

【資機材の構成】

1.固定索(主索): ダイニーマΦ12ミリ

2.動索(巻きあげ索):Wブレード(ナイロン芯+ポリエステル外皮)Φ10ミリ

3.動力:エンジンウインチ 50cc 2サイクル

4.搬器:森の機械製HANAKO A2 / ブレーキは繊維ロープ用

5.空搬器移動用ロープ:PP(ポリプロピレン)製Φ12ミリ

 


下げ荷は重力方向と牽引方向が一致するため荷の転落リスクが大きいと言われます。また下げ荷の空中運搬は動力1つでは不可能と考えられてきました。しかしこのように安全な下げ荷ができるのは、牽引方向に拮抗するブレーキ力が働くためです。

 

以上、下げ荷のリスク回避の点から説明しましたが、上げ荷においても搬器HANAKOは同じしくみで同じ動作をします。詳しくはHANAKO A2のページをごらんください。

HANAKOの対応範囲はこの図に示したとおり。

動力1つで端上げ地引き・空中運搬のいずれの架線方式にも対応します。また運搬方向(下げ荷・上げ荷)に関係なく、荷は同じ動きをし、下げ荷の危険を回避することができます。

 


【補足】倍力にするとどうして動力1つでも端が上がるのか

倍力の働きについて理解を深めましょう

倍力にすると搬器の位置が変わる

倍力のしくみは上げ荷のときに端上げ(はなあげ)に有効だと分かりましたので、その理由を整理します。

搬器は固定索上で、力の釣り合うところまで移動します。言い換えると、釣り合う位置=搬器が止まる位置です。搬器が止まる位置は倍力ありと倍力なしとでは異なります。それは搬器にかかる張力aと張力bの比率が倍力の使用によって変わるからです。

 

端上げはこの性質に由来した現象に他なりません。


倍力なしの場合

搬器はOの位置、荷はPの位置にあると考えてください。 

 

倍力なしの場合では、動索の張力Tと荷を上げようとする張力Tが等しいために、合成力OP(および合成力OP')と固定索のなす角度が小さくなります。この角度が小さくなるというのは、荷(P)の真上から搬器(O)が居なくなる=搬器が逃げることを意味します。

 

ちなみに、搬器の重量Mが小さいほど角度が小さくなります。すなわちPP'は固定索と並行になるまで近づいていきます。

 

逆に搬器の重量Mを大きく搬器が逃げにくくなります。しかし重くすることが良い解決策とはいえません。


2倍力の場合

同じく、搬器はOの位置、荷はPの位置にあると考えてください。

 

2倍力の場合は、動索の張力は荷重の半分になります(半分で済むのは動滑車を使って荷を掛けるからです)。

これにより合成力OP(および合成力OP')と固定索のなす角度が大きく開きます。この角度が直角に近づくことにより、搬器(O)は荷(P)の真上近くに来ようとします。つまり搬器が逃げないことを意味します。

 

倍力のときは搬器が荷の真上から張力を発揮できるため、端上げがしやすくなるのです。